私の仕事は、お菓子を作ることです。
私にとって、そのお菓子を通じて様々なものがつながっていくことが、働くよろこびです。お菓子というものの力を借りて、人と人をつなげていく喜び、また、私自身の中でも過去と今、それに未来がつながっていく喜びがあります。
私は、住宅街の一角にある小さなお菓子屋さんで働いています。見慣れた顔が、いつものお気に入りを買っていく、ぶらっと来た方が嬉しそうに「素敵なお店を見つけた」と声をかけてくれる、そんな温かい雰囲気のお店です。働き始めて四年目になり、毎日が当たり前のように過ぎていきますが、それでも同じような日は一日としてなく、発見を繰り返し、充実した日々を送っています。季節の移り変わりごとに「次は、どんなお菓子を作ろうか」とウキウキし、決して飽きることはありません。一方的に作るだけでは自分だけの独りよがりのものばかりに偏ってしまいますが、何度もお店に足を運んでくれる方々と言葉を交わすようになり通じ合うことで、私にとってのお菓子を作る喜びは、それを気に入って買ってもらえるからこそのものであると実感する毎日です。誰かの人生のかけがえのない瞬間を、私の作ったお菓子が彩ることを想像するとやりがいを感じます。そして、自分の仕事が人に喜んでもらえるものであるということは、この仕事の魅力だと思います。
私がお菓子に惹きつけられる理由は、持ち運べる手軽さにあると思います。木箱に並んだとびきりのものや、さっと包んでありすぐに食べられるものなど、お菓子は多種多様な形で持ち運ばれます。お店では「かわいらしいから、ひとつは自分に。ひとつはお友達に」というような声も多く、その度にお菓子は、優しい気持ちも一緒に運んでくれます。「頂いて美味しかったから、買いに来たわ」なんていう言葉を聞くと、お菓子を作った私と、贈ってくれた人の想いとが二倍になって何よりの喜びです。お菓子に込めた想いが伝わって、つながっていくことが私の働くよろこびと言えます。
また、お菓子は私にとって自己表現の場でもあります。私自身には、多くの方がそうであるように、楽しかった思い出とお菓子が、いつも共に存在しています。
中でも忘れられないお菓子は、私が大学一年生の時、友人の誕生日のお祝いで作ったチーズケーキです。その日集まった皆の名前をチョコペンで書き入れた、いたってシンプルなものですが、皆が歓声をあげ、笑顔で食べてくれた時には、「本当に作って良かった」の一言に尽きました。今でも、その時の気持ちを忘れたことはありません。損得も何もなく、ただただ友人を喜ばせたいという想いで作ったあのケーキは、私の原点でもあります。
その後も、カフェやレストランなどのアルバイト先で、良き仲間と共に、「皆を喜ばせたい、楽しませたい」という気持ちで、いつも、お菓子を作ることと向き合ってきました。そして、その気持ちは、少しも変わることなく、今ではお菓子を作ることも存分に楽しんでいます。そして、私自身が体験してきた時間をお菓子に込めて、私自身というものを知ってもらいたいとも思っています。今まで私が出会ったお菓子、知り合った人や心に残る出来事全てを吸収して、私の作るお菓子は私と共に成長していきます。つまり、過去から今、そして未来へとお菓子を作る事によって、私の想いはつながっていくのです。
お菓子が店先のショーケースに並んでいる間は、売り物として輝き、堂々としてさえ見えますが、残念なことに売れ残ってしまえばそれまでです。お菓子を作るということは、いつでも販売することと一対の、はかないものです。仕事となれば、楽しいだけでは通用しない厳しさもあります。この職業についてよく考えてみると、作るだけでは仕事になりません。お菓子を作るために技術が必要なのはもちろんですが、作ったお菓子を販売すること、また、より売れるようにするにはどうすれば良いか考えること、そして、何よりも自分自身で探求し、工夫していくことなど全ての側面が仕事の要素になります。
職場でも、どういったものを作るか話し合えば、時には意見がぶつかったりしながらも分かり合い、信頼関係を築いています。それは、何があっても支えあえる、心強いつながりです。お店に足を運んでくれるお客様とも確かな信用という名のつながりがあればこそです。
働くということ、そして仕事そのものが楽しいという気持ちが、お菓子にも表れるはずだと、私は確信しています。
このように、お菓子作りを通じての様々なつながりが、私にとって、お菓子を作ることを仕事として生きているというよろこびそのものです。